2016年10月

2016年10月23日

花侍のサハラ 最終話「花の咲く世界」 感想

「この闘いの終わりは必ず…花の咲く世界だ…!!!」

芝田優作先生の連載2作目「花侍のサハラ」がジャンプGIGAの最終号に合わせて4話で完結しました。
「ヨアケモノ」は未だに大好きですが、2作目の連載には期待と不安を感じていました。しかし、そんな不安半分を期待に全部塗り替えてくれた1話から4か月があっという間に過ぎました。
最終話を読んだ感想を一言で表すと、「最高」です。今まで読んできた1巻完結の作品と並べてもベスト5に入るくらい好きです。

3話の感想が雑すぎたので、最終話感想はなるべく色々なことを書きたいです。

○大皇具足の終わりと、始まる過去の物語


サハラはヤエの助太刀によって大皇具足の懐へ飛び込み、破壊に成功します。
しかし、戦いは終わらず、人型の異形が現れて―
ここからついに、1話から仄めかされていたサハラの過去が明かされます。
女性剣士・霞ヨシノが研究者のサハラを守るために現れたこと。
正宗センジという「もう一人の天才」がサハラの命を狙っていること。
脅威を増す自動具足に対抗するためにサハラが「花刀」を作り、彼を信じたヨシノが「花侍」になったこと。
しかし、その「花刀」はヨシノの肉体を蝕んでいたこと。

3話までに描かれた断片的な情報―例えば
①「花侍」は身体が崩れ去って死んだ(3話)、
②サハラが女性を抱えて絶望しているシーン(1話)、
③ヨシノの姿がはっきり描かれている(3話)
―これらの情報からこの展開は予想できたはずなんですが、
サハラがあまりに強いので、侍ではなく研究者だという発想がなくて良い意味で騙されました。
「花刀を作ったのは世界をこんな風にした奴」という2話の独白は見事な伏線ですね。
108年かかって、研究者から侍になれた(それだけの強さを得られた)というのは納得しかありません。
そしてヨシノさんが可愛いのがまた良いですね。

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台詞無しの1コマしか描かれていませんけど、頑張って料理をしてみました的なシーンが良すぎます。
もしヨシノさんが料理下手なら2話冒頭のヤエちゃんが料理上手いシーンが活きるので上手すぎる回想だな、とも思うのでした。


○正宗センジの執念

過去の悪夢から目が覚めたサハラは、ヨシノと自分が「花侍」になる元凶となった男・正宗センジが異形の姿で蘇ったことに衝撃を受けます。
108年の時を経て普通の人間では無くなったサハラと正宗は、互いの能力を振るって激しい戦闘を繰り広げるものの、大皇具足から「無限の力」を受けた正宗が次第にサハラを圧倒し―

最終戦となるサハラVS正宗は、これまでの大型の化物との戦いとはガラッと変わり、人間サイズ同士の戦いになりました。が、花刀を模倣した正宗の力が派手で、これまでの戦い以上に迫力があります。「菫の形」の展開状態なんかは正宗用に合わせてデザインしたんだなとわかるくらい似合っています。正宗はエビみたいであんまり格好良くないなと思っていますが、「菫の形」を武装したコマは良いですね。
あと、お互いに同じ能力を使っていたり、研究者だった108年前からは想像できないお互いの力をぶつけ合っている共通点があって、会話をしながら戦っているのが面白いです。本質は頭を使う方なんだな、という感じがすると言いますか。

余談ですが、最後まで読み終わってから、砂漠の世界、サハラのガスマスク、正宗の異形などを見て若干の「マッドマックス」っぽさを感じました。
(芝田先生はツイッターで、4DX上映を見て興奮した話などを呟いていました)

○花侍の死と闘いの終わり

正宗の渾身の一撃が振り下ろされる瞬間、ヤエが「アタシが守る!」と言いサハラを守ろうとする。
サハラは再び過去の記憶を思い出し、ヨシノの最期を思い出す。
「ボクを信じて」と言い続けたサハラを信じたヨシノは、
正宗の一撃から彼を守り、その想いを胸に花となって散った。
サハラは「花侍」となって闘い続けることを誓う。
そして108年が過ぎた今、最後の敵・正宗を前にサハラもまたかつてのヨシノのように―

全ての過去が描かれ、正宗との戦いはついに決着します。
サハラがここで言う「ボクが散っても意志は残る」からのくだりは、いかにも少年漫画の主人公が言いそうな言葉なんですよね。
これを散り際に言っていたら、まあ少年漫画ならそうなるよねくらいの感想で終わるんですけど、この作品の何が最高かというとヤエちゃんがサハラの意志をここで否定するところです。
サハラはヤエと出会ったばかりの頃に花の意味を「大切な人を送るため」と言いました。
「亡くなった人を送る為に花がある」と教えられたヤエちゃんが、サハラに同じことを返すわけです。
3話感想でも少し触れましたが、サハラが1人で戦って時代が過ぎるなかで鴇色家が代々繋いできたものが108年経ってサハラとやっと交わったというのは最高なんです。
これが4話でも改めて描かれたのが本当に嬉しいです。
サハラから送られた言葉を、100倍の熱量で返すヤエちゃんに胸が熱くなります。


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というか、この2人の顔が素敵すぎてここでもう泣いてました。
ほぼ閉じた右目しか描かれていないのにサハラが笑っているのがわかる、という芝田先生の画力の凄さが無ければ成立しない名シーンだと思います。凄いです。

さて、そろそろ終わります。
「花侍のサハラ」は、いかにも死にそうなサハラが本当に死んでしまうのか?というのが1つの着目点でした。
ヤエちゃんの想いの力で正宗を打ち破ったサハラがやっぱり死んでしまう可能性もあるわけです。
ここまでネタバレに配慮も何も無い感想でしたし、最高ですと連呼しているので結果はわかりきっているようなものですが、ラストページはぜひご自分の目で確かめてほしいです。
何回読んでも泣いています。

単行本が出た時にも何か書けたらいいなと思っています。
ヨシノさんの可愛い姿や、正宗のコンプレックスの根源など、気になっている点が「ヨアケモノ」のコミックス描き下ろしのように掘り下げられる可能性に期待しています。

この1年間は、「ヨアケモノ」完結の半年以上後に描かれた読切「ZIPPO!」の連載がなかなか始まらないことが辛かった年でした。
ある日、「花侍のサハラ」の初報が出て、増刊の読切か…と少し落ち込んで、しばらくして連載だということがわかり、1話の電子版を発売日の0時に買って読んで最高だなと噛み締めて、見開きをちゃんと見たくて紙でも買って、2話も面白くて、3話も良くて、最終話が今まで読んできた漫画の中でも屈指の最高の終わり方をしてくれて、芝田先生のファンでよかったという気持ちでいっぱいです。
GIGA4号発売から数日経っていますが、毎日読み返してはラストページで涙目になったり泣いたりしています。
芝田先生の連載3作目はぜひ「週刊少年ジャンプ」で!と期待しつつ、「花侍のサハラ」という作品と出会えたことを一生大切にしたいです。
コミックスも電子版と紙版で買うぞ!!

ジャンプGIGA 2016 vol.4 (未分類)
週刊少年ジャンプ編集部
集英社
2016-10-20



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comic_review_10 at 22:58|PermalinkComments(0)花侍のサハラ 

2016年10月19日

花侍のサハラ 第3話「大皇具足」 感想

「世界を返してもらうぞ!!」

「花侍のサハラ」3話感想です。
あと3時間半で最終話の掲載された電子版ジャンプGIGAが発売します。
2話の感想は読後1分で書き始めたのにどうしてこうなった。

さて、2話の最後で「世界樹の谷」に辿り着いたサハラとヤエを待ち受けていたのは喋る自動具足……ではなく、人が乗って動かすことのできる「機甲具足」でした。
技術の発展について考えると、確かに自立して動く鎧の化け物のベースとして、人が動かす鎧があったと考えると自然ですね。これは盲点でした。
そんな機甲具足に乗っていた人物は、なんとヤエのおばあちゃん・鴇色カエさんでした。
おばあちゃんと初めて会うヤエちゃんの喜びが眩しいです。

カエおばあちゃんとの出会いによって、サハラが108年前から戦い続けていたことが判明します。
ラスボスの大皇具足が世界樹の谷を侵していることなど、終盤に突入して色々と設定が明かされていきますが、ここで注目したいのが、サハラが長寿だと判明して1話からの積み重ねが活きた、ということです。
1人で戦い続けてきたサハラと、1話でヤエが、2話でカンイチ(父親)が、3話でカエ(祖母)が描写され、戦い続けてきた鴇色家の道がここで交わるんですよね。
ヤエちゃんの「アタシが守ってやる!」という言葉は、自動具足の恐怖に負けた世界で、血を繋いで戦い続けてきた一握りの人間が一人で戦い続けてきた花侍を救った瞬間なのではないかな、と。
それにしても、(全4話で終わると決まっているからこそ)2話も3話も狭い人間関係で攻めてきたのがサハラの長寿設定とバッチリ噛み合った時は唸りました。

帰ったら怒られるというあたり、生きるのを諦めていないサハラは楽観的なのか、若い肉体のままだから死の実感がないのかわからないのが引っかかるところですが、彼が死んで終わるような悲しい結末にはならないでほしいところです。
大皇具足の中に眠る男が目覚めて最終話へ続きます。いったいどこの正宗なんだ…。

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comic_review_10 at 21:04|PermalinkComments(0)花侍のサハラ